鯨のうた

これだ、わたしが待っていた豚串。

今、一人で食べてもあの時と同じような美味しさを感じるのだろうか。
ただ豚串を食べに来ただけだというのに、豚串の串を摘み、口へ運ぶ瞬間が妙に緊張した。

そして、そっと口へと運び、タレのついた豚串をわたしは頬張る。
ゆっくりと噛み締めて味わった。

(あれっ···)

わたしは思った。

(美味しい···、けど―――やっぱり何か物足りない)

その瞬間にわたしは、気付いてしまった。

あの時の満たされた心は、この豚串の美味しさだけではない。
雨龍課長の存在も大きかった事を―――

独りで居る事も、独りでの食事も当たり前で慣れていたはずだ。

それなのに、わたしはどうしてしまったんだろう。

あの一度で独りでの食事に物足りなさを感じてしまうだなんて···どうかしてる。

すると―――

「―――あれ?露草さん?」

聞き覚えのある優しい低音ボイスがわたしの名前を呼ぶ。

その声にふと振り向いてみると、そこには雨龍課長の姿があった。

「あ、やっぱり露草さんだ」
「雨龍課長」

雨龍課長はゆっくり歩み寄って来ると、「隣いい?」とわたしに確認してから、わたしの隣に座った。

「一人?」
「はい、この前、雨龍課長に連れて来ていただいた時の豚串の味が忘れられなくて、来ちゃいました」

わたしがそう言うと、雨龍課長は嬉しそうに微笑み「でしょ?やっぱりここの豚串、最高なんだよねぇ」と言った。
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