鯨のうた

わたしは、その次の日には貯金をおろし、彼に8万円を返した。

"返せた"という事からわたしは安堵したが、その安心も束の間だった。
それから、彼からの連絡が突然減っていったのだ。

不安になったわたしは、彼に「わたしの分の飛行機のチケットは?」と訊いた。

すると、彼からの返答は「チケットは友達に頼んで取ったから、ちょっと時間かかる」だった。

納得出来ず、不安は募ったが、わたしは彼を信じ、待つ事にした。

しかし、その気持ちとは裏腹に彼からの連絡は、2日、5日、一週間と段々と期間が空くようになると同時に会ってもくれなくなり、彼への不信感は増すばかりだった。

久しぶりに連絡がきたと思っても『忙しいから、ちょっと待って』とだけで、また返信はこなくなるの繰り返し。

そして、彼からの連絡がこなくなり、もうすぐ一ヵ月が経とうとした時···―――
旅行予定日、一週間前となった。

さすがにおかしいと思わざるを得ない。

わたしは彼から聞いていた宿泊予定の宿に電話をして、予約が入っているかを確認した。
しかし、彼の名前でもわたしの名前でも予約は入っていなかった。

その瞬間、わたしの頭の中は真っ白になった。

―――また、やられた?

それでも、わたしはまだ彼を信じたかった。

それから最終手段として、わたしは彼から聞いていた彼の自宅の住所に向かったのだ。
実は、わたしは彼の自宅には一度も行った事がなかった。

会う時は、いつも外かわたしの家だったからだ。

一時間掛けて、聞いていた住所へ足を運んだわたしの目の前に現れたのは、大きな一軒家だった。

彼からはアパート暮らしだと聞いていた。
それなのに、そこには存在していたのは、庭付きの一戸建て。

もう彼から連絡もこなくなり、旅行予定日も過ぎていた。

―――騙された

もう、そう認めざるを得なかった。
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