鯨のうた
すると、航は自分らしくない質問をしてしまった事に気付いたのか、「んー、まあ、別にお前が雨龍課長とどうなってようと、俺には関係ないけどな」と言い、そっぽを向いた。
「それなら、最初からこんなとこまで連れて来ないでよね」
「―――でもさ、」
そう何かを言い掛けて、航はわたしに背を向けながら、ポケットに手を突っ込んだ。
「いや、何でもないや。取り敢えず···、何かあれば俺に言えよ。俺たち、元相棒だろ?」
ぶっきら棒にそう言い放つ航の声は優しかった。
わたしは、「"元"相棒ね。···ありがとう」と言うと、給湯室を出た。
噂に流されない航が、突然こんな行動に出て、あんな言葉をわたしに掛けてくるなんて―――
(あー、調子狂う)
そして社員食堂に戻るつもりだったわたしは、一度足を止めた。
このまま社員食堂に戻っても、周りの視線や噂話で休憩時間なのに休憩にならないかもしれない―――
そう思ったわたしは、向かっていた方向とは逆を引き返し、エレベーターに乗った。
向かう先は屋上。
(今日も、居るかな)
わたしは何故か唐突に、無性に雨龍課長に会いたくなってしまったのだ。
わたしは屋上でエレベーターから降りると、外へ出られる扉を探した。
そして、廊下を真っ直ぐ行った先に重そうな鉄の扉を見つけた。
この先に居るかもしれない。
そう思いながら、わたしは全体重を重い扉に掛けながらドアノブを回し、扉を開けた。