鯨のうた

「雨龍課長···」

雨龍課長の登場に中谷さんは動揺していた。
先程までの勝ち誇ったような余裕はどこへいったのか―――

雨龍課長はゆっくりとこちらへ歩み寄って来ると、わたしの隣に並び、中谷さんの方を向いた。

「君、営業部の···名前は何だったかな?」

そう訊く雨龍課長だったが、中谷さんは俯き答えなかった。

「まぁ、いいや。君だったんだね、変な噂を流していたのは」

雨龍課長がそう言うと、中谷さんは視線を外しながら「何の事ですか?」と声を震わせながら言った。

すると雨龍課長は、中谷さんの目の前に自分のスマートフォンを出して見せた。

「実はね、さっきの君の発言···録音させてもらってるんだよ」
「えっ?!」
「だから、言い逃れは出来ないよ?」
「あ、いや、あのぉ!ち、違うんです!わたしは、ただ―――」

中谷さんの慌てように雨龍課長は冷たい視線を送りながら「ただ、何かな?」と低い声で言った。

良い言い訳が浮かばなかったのか、中谷さんは「も、申し訳ありません!」と言い、深く頭を下げた。

それから雨龍課長は「今後は、嘘をつかないようにね。僕は、嘘つきが嫌いなんだ」と言うと、フッと笑い、中谷さんに「もう行っていいよ」と声を掛けた。

その瞬間、中谷さんは「失礼します」と言いながら、逃げるようにその場をあとにした。
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