鯨のうた
そこで、わたしはふと思った。
(そっか、だから今日のお昼は、屋上に居なかったんだ)
そう―――
雨龍課長はお昼休憩を削って、中原専務の元へ行き、事実無根の噂話をどうにか食い止めようとしてくれていたのだ。
―――守る
その約束を雨龍課長は守ってくれていた。
わたしが働きづらくならないように···
「実は今、わたし屋上に行ってきたんです」
「えっ?!」
「あそこからの景色、最高ですね。大通り公園が見渡せて」
「でしょ?でも、行くなら俺に声掛けてよ〜」
「だって、雨龍課長いなかったじゃないですか」
「―――あ、じゃあ、明日。明日は一緒に行こう」
「わかりました」
わたしは雨龍課長とそんな会話をしたあと、各部署に戻った。
そして、その日の内に中原専務から雨龍課長が言っていたメールが全社員に送信された。
そのメールをきっかけに中谷さんは大人しくなり、わたしと目も合わせなくなった。
周りの社員たちもまた、わたしについての噂話もしなくなった。
何もかも雨龍課長のおかげだ。
(こんな事されちゃ···ときめかないわけないよ)
そう思う自分がいたが、すぐに(いや、ダメダメ)と言い聞かせた。
もし仮に想ったところで、何も前には進まない。
今の関係でいい。それが一番なんだ。
わたしはそう思いながら業務に戻ったが、心のどこかには雨龍課長への想いが消えずに残っている。
それを分かってはいたが、わたしは自分を騙すように気付かないフリをしていた。