鯨のうた

***


10月の中頃になると、社内は11月の社員旅行の話で持ちきりになっていた。
今年宿泊予定の旅館が有名な宿らしく、みんなワクワクしているようだ。

わたしも入社してから数年は参加していたが、2年前からは参加するのをやめた。

もちろん、今年も『不参加』で報告済だ。

すると、わたしのデスクにフラッと航がやって来て「なぁ」と話し掛けてきた。

「お前、社員旅行はどうすんの?」
「どうするって、不参加で出したけど」
「はあ?!何でだよ」
「何でって···、わたしの勝手でしょ?もういい?今、仕事中なんだけど」

わたしがそう言って、話を終わらせようとすると、航はわたしのデスクに手を置き、わたしの顔を覗き込んできた。

「今年は参加しろよ」
「だから、もう不参加で出したって」
「前は俺が誘ったら、参加してくれただろ」
「あの時は、航の担当だったから···関係良好の為に行ってただけ」
「じゃあ、今はどうでもいいのかよ···俺との関係が、悪くなっても」

航の言葉にわたしはふと顔を上げた。
航は真剣な表情をしており、からかったり冗談ではなさそうだ。

わたしは航を見上げると、「わたしより、中谷さんとの関係を大事にした方がいいんじゃない?担当事務さんなんだから」と言い、再びパソコンに目を向けた。

航は「···何だよ」と呟くと、荒々しい足音を立てながら、オフィスから出て行った。
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