鯨のうた

「ここって、冬は寒くなったりしないんですか?」

わたしがそう訊くと、雨龍課長は足元に向けて手をかざすと「電気ストーブがあるから大丈夫」と言った。

「本当だ。準備バッチリですね」
「毛布もあるから、昼寝もできるよ」

そんな会話にクスッと笑いながら、今日もわたしは雨龍課長が用意して来てくれたお昼ご飯を食べる。
今日は会社前に来ているキッチンカーでハンバーグ弁当を買って来てくれていた。

「いつもご馳走になってばかりですいません。今度は、わたしが何かご馳走させていただくので!」
「いやいや、そんな事気にしないでよ。俺が強引に連れて来てるだけなんだから」
「別に強引に、嫌々来てるわけじゃないですよ」
「そう?なら良かった」

そう言って、二人並んでハンバーグ弁当を頬張る。

すると雨龍課長が「―――あ、そう言えばさ」と話し始めた。

「露草さん、社員旅行はどうするの?行く?」
「あー···、いえ。わたしは不参加で提出しました。2年前から行っていません」
「そっかぁ···」
「雨龍課長は?行くんですか?」

わたしがそう訊くと、雨龍課長は「露草さんが行かないなら、俺も行くのやめようかな」と言ったのだ。

「えっ?!」
「え、だって、露草さんがいない社員旅行なんてつまらないし」
「そ、そんな事ないと思いますよ?」
「あぁ、そうだ。二人で欠席して、一緒にご飯食べない?そういえば、先日の件で中原専務から良いワインいただいてさ。一人で飲むのもアレだから、うちに来て一緒に飲もうよ」

まさかの提案にわたしは驚いた。

(雨龍課長の家で、ワイン?!)

すると、わたしの反応に気付いた雨龍課長が「あ、いや、無理なら無理って言ってくれていいからね?本当に!」と慌てて、気遣いの言葉を掛けてくれた。

違う、嫌なわけではない。
ただ、本当にわたしなんかが行っていいのか―――

迷ってしまっただけなのだ。
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