鯨のうた


その日の帰り。
定時になり、わたしは営業部の中で一番最後にオフィスを出た。

一斉に帰宅する、あの人混みが苦手なのだ。

そして、一人エレベーターに乗り、一階へと下りる。
エレベーターを降りて、出口へ向かい、出入口横に立っている警備員さんに「お疲れ様でした」と挨拶をした直後だった。

「―――よっ」
「わあっ!!!」

出口を出てすぐに航が姿を現したのだ。

「もぉ···ビックリさせないでよ」
「別にビックリさせるつもりはなかった」
「何でいるのよ。帰ったんじゃなかったの?」

そう言いながら、わたしたちは歩き始める。
すると航は、まるで独り言を呟くように「待ってた···千衣を」と言った。

「えっ?なんで?」
「···いやぁ〜、俺もさ、社員旅行に行くのやめようと思って」
「えぇ?毎年参加してなかったっけ?」
「まあ、そうだけど」
「じゃあ、なんでまた?」

わたしがそう訊くと、わたしは横目でわたしを見下ろし、何か言いたげな表情を浮かべた。

「何よ」
「···俺とさ、デートしない?」

航の口からまさかの言葉が飛び出し、わたしは言葉を失った。

航とわたしが―――デート?!

「え、え??何?どうしちゃったの?」
「どーしたもこーしたもねーよ!デートだよ、デート!」
「何でわたしが、航とデートしなきゃいけないのよ」
「いいだろ?社員旅行いかない者同士で。どうせ予定ないだろ?」

航の言う「どうせ」と言う言葉にわたしはイラッとする。
そしてわたしは、「予定なら、あります」とハッキリと答えた。

「えっ?」
「予定あるって言ってるの。勝手に予定ないとか決めつけないでよね」

わたしがそう言うと、少し沈黙があった後で航が口を開いた。

「―――もしかしてだけど、その予定って···雨龍課長との予定だったりする?」
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