鯨のうた
***
あれから2週間が経とうとしている。
航とは、挨拶程度で特別会話を交わしていない。
しかし、社員旅行が迫っている今、ハッキリと断らなくては―――
そう思ってはいるものの、わたしはいまだ航に話し掛ける事が出来ずにいた。
そんなある日の午後の事だった。
オフィスに溜まってきた資料を6階の"第1資料庫"に運ぶ為、わたしは台車に山積みになった資料を乗せながら、6階の廊下を歩いていた。
すると偶然、販売促進課のオフィスから出て来た航と出会した。
「――おっ、···千衣か」
「あっ···、航」
航はわたしの姿を見ると、台車に視線を移し「どうしたんだよ、これ」と言った。
「資料を仕舞う場所がなくなってきたから、そこの資料庫に移そうと思って」
「何だよ、それなら俺に言えよ。こんなに大量に···一人じゃ大変だろ」
航はそう言うと、わたしの代わりに台車を押し始めた。
「あっ、ちょっと!わたし一人で大丈夫だから!」
「いいから。手伝わせろ」
そう言う航に続き、わたしは"第1資料庫"へと入った。
航は一気にたくさんの資料を抱えると、手際良く資料を棚へ仕舞っていく。
その隣でわたしは気まずいながらも航と一緒に束になった資料を仕舞おうとするのだが、空いている場所が高い場所しかなく、わたしは背伸びをした。
すると、すかさず航は手を差し伸べてくれ、「無理するなよ、チビ」と言った。
「チ、チビって。わたし162はあるから、別にチビではないんですけど」
「俺からすればチビだよ」
確かに航は背が高い。
正確な身長を聞いた事はないが、180センチはゆうに超えている。
わたしは「チビ」発言に納得いかなかったものの、小さな声でボソッと「ありがとう」と呟いた。