鯨のうた
わたしをソファーに座らせた雨龍課長は、テキパキと動きながら準備を進めていった。
リビングには、あっという間に良い香りが漂って、そしてあっという間にテーブルの上は美味しそうな料理が敷き詰められた。
「わあ···、美味しそう」
出て来た料理は、シンプルなサラダにオニオンスープ、エビピラフにチキンのトマト煮込みだ。
「雨龍課長って、お料理上手なんですね」
「そうかな?まあ、一人暮らしが長いからね〜」
「わたしなんかよりも上手かも···」
わたしがボソッとそう呟くと、雨龍課長はわたしの隣に腰を下ろし「じゃあさ、」と言って、わたしの顔を覗き込んだ。
「次は、露草さんの料理も食べさせてよ」
「えっ!わ、わたしですか?!」
「うん、うちのキッチン好きに使っていいからさ」
雨龍課長の言葉にわたしの胸は音を立てる。
(次は···、次が、あるんだ)
"次"という言葉にわたしの心が熱くなる。
嬉しさで頬が緩むわたしは「じゃあ、今日は洋食なので、次は和食ですね」と言った。
すると、雨龍課長は「おっ、和食いいねぇ」と言って笑顔を浮かべる。
次の約束をしてしまった。
また···ここに来て良いんだ。
嬉しさで一杯になるわたしは、自分が「もう男はこりごり」だと言っていた事をすっかり忘れてしまっていた。
凝りもせず、またときめいてしまうなんて、わたしは馬鹿だ。
でももうこの気持ちは、止められそうになかった。