鯨のうた

***


あれから一週間が経とうとしていた。

諦めはついたものの、なかなか気持ちは晴れず、心にモヤモヤが残ったままだった。

わたしの何がいけなかったのだろう。
それとも、最初からお金が目当てでわたしには気がなかった?
それなら何故、わたしはそれを見抜けなかった?

考えれば考える程、分からなくなっていった。

そして、会議で使用する資料を抱えながら、エレベーターから降り、会議室を目指して5センチヒールのパンプスを響かせながら、タイルカーペットが敷き詰められている廊下を歩いていくと、会議室の扉の前で立ち話をする中原(なかはら)専務と雨龍(うりゅう)課長の姿が目に入ってきた。

「雨龍くん、どうだ?うちの娘に会ってみないかい?父親のわたしが言うのもアレだが、なかなかの別嬪だぞ?」

雨龍課長の肩にポンッと手を置き、中原専務は言った。

その姿を見て、わたしは(雨龍課長、また言われてる)と、すぐに何の話かを悟った。
きっと中原専務は自分の娘と雨龍課長とお見合いさせたいのだろう。

つい先日は、林(はやし)常務に同じような話を持ち掛けられていた。

雨龍優作(うりゅう ゆうさく)課長、35歳。
最年少で課長に昇進し、上司と部下から共に信頼はあつく、その上180センチ以上はあるであろう長身にスタイルも完璧、顔も鼻筋が通ったシュッとした輪郭に万人受けするような顔立ちを持ち合わせており、いまだに独身なのが信じられない程のスペックだ。

もちろん、女性社員たちからの人気は高く、その多くの女性社員たちは雨龍課長の声に心を掴まれていた。
ただの低音ボイスなだけではない、優しさや穏やかさがある包容力を感じさせる魔法の声質の持ち主なのだ。
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