鯨のうた
しかし、普段ワインを飲み慣れていないわたしは、あっという間に酔ってきてしまった。
そんなわたしに気付いた雨龍課長が「大丈夫?」と声を掛けてくれる。
わたしは笑って誤魔化しながら「ちょっと、酔ってきちゃったかなぁ〜」と言った。
「顔赤いよ。一度休憩しようか。温かいお茶でも淹れるよ」
「何かすいません···」
「何で謝るの?まあ、酔いつぶれてくれて全然構わないんだけど、まだ露草さんとの時間を終わらせたくないからね」
雨龍課長はそう言って微笑むと、一度ワインを片付けた。
―――まだ露草さんとの時間を終わらせたくない
(そんな事言われたら···期待しちゃうじゃん)
そう思いながら、わたしはソファの背もたれに寄りかかり、何気無く正面に視線を移した。
すると、丁度正面にはテレビ台があるのだが、その高い位置に鯨の置物が置かれている事に気付いた。
「あっ、鯨···」
そう呟くと、雨龍課長に聞こえたのか、雨龍課長は「あぁ···それね」と言って、それから温かいお茶を運んで来てくれた。
「はい、熱いから気を付けてね」
「ありがとうございます」
小柄なマグカップに入ったお茶を受け取ると、香ばしい緑茶の香りが心を落ち着かせる。
わたしは熱いお茶に息を吹きかけると、そっとお茶をすすった。
「露草さん···、前に鯨の話したの、覚えてる?」
鯨の置物を見つめながら、雨龍課長が言った。
「はい、もちろん覚えてますよ」
「かなり前にね、鯨の模型が展示された博物館に行った事があるんだけど、その時に買ったんだ。"世界一孤独な鯨"の事もその時に知ったんだよ」
「そうだったんですね」
その話を聞き、(雨龍課長って、そんなに鯨が好きなんだなぁ)と呑気な事を考える。
すると雨龍課長は、突然「そういえばさ、」と何かを話し始めた。