鯨のうた
わたしの問いに雨龍課長は「んー···」と唸ると、天井を見上げ「そうだよね···、理由も言わずにお願いだけするのは、ズルいよね」と呟いた。
そして、わたしの方を向いた雨龍課長は背もたれから背を離し、姿勢を正した。
「―――竹浪くんに···負けたくないからだよ」
真っ直ぐな瞳でそう言う雨龍課長の言葉にわたしは吸い込まれそうになる。
(負けたくない?それって―――)
すると、雨龍課長は言葉に詰まるわたしに向かい「露草さん、少し俺の話···聞いてもらってもいいかな?」と言った。
わたしはその言葉にゆっくりと首を縦に振り「はい」と返事をした。
「ありがとう」
雨龍課長は優しい表情でそう言うと、自分の過去を話し始めた。
「―――実はさ、俺···8年前までは彼女がいたんだ。大学の時から付き合ってた同じ歳の女性でね、社会人になってからも付き合いは続いてた。俺は、彼女とは上手くいってたと思ってたし、このまま···結婚するんだろうなぁ〜なんて、勝手に考えてた」
そう話す雨龍課長の口調は穏やかだった。
しかし、次の言葉を聞き、わたしの背筋は凍り付き、胸が苦しくなる事になる。
「でもね···、彼女は突然、何の前兆もなく、俺の前からいなくなってしまった―――」
「えっ?それは連絡が取れなくなったって事ですか?」
「ううん···、ただ連絡が取れなくなっただけなら、まだ良かったのかもしれない」
雨龍課長はそう言うと、ゆっくりと俯いてしまった。
「―――自殺したんだ。自分の部屋で···首を吊ってるのを発見された」
思わぬ話にわたしは言葉が詰まり、ギュッと胸が締め付けられるのを感じた。
そして、そんな雨龍課長に掛ける言葉が見つからずにいた。