鯨のうた
Story.6
社員旅行があった休日を明けた出勤日。
朝から航の視線がやたらわたしに突き刺さって気になった。
「···何?」
「別に···」
航のデスクはわたしのデスクと向かい合せになっている斜め左。
パソコンの間からチラチラと、航の視線を感じるのだ。
(もう何なのよ···、気が散るなぁ)
そんな事を思いながら午前中を過ごし、迎えたお昼休憩。
わたしがデスクを立つと同時に「千衣」と、航がわたしを呼んだ。
「···ちょっといいか?」
航からの呼び出しに、わたしは渋々ついて行く。
そして航について行った先は、喫煙所付近の自動販売機がある大きな窓の前だった。
「何なの?こんなとこまで連れて来て」
わたしがそう言うと、航は不服そうな表情でポケットに手を突っ込み、わたしを見下ろした。
「どうだったんだよ」
「え?どうだったって、何が?」
「だからぁ···、雨龍課長とのデートだよ」
航の言葉で、ふと思い出す雨龍課長との時間―――
思い出すだけで恥ずかしくなってしまうのをグッと抑えるわたしは、「そ、そんな事、航に関係ないでしょ?」と言って、航から目を逸らした。
すると、そんなわたしの反応を見た航が突然、わたしの両腕を掴んできた。
「もしかして!何かされた?!」
「はあ?!別に、何もされてないわよ!」
「―――んなら、良かった」
そう言って、安堵する航。
わたしはそんな航を睨みつけると、「ちょっと···手放してくれない?痛いんだけど」と言った。
「あっ、悪い」
航は慌ててわたしの腕から手を離し、両手を上げる。
まるで銃を突きつけられて降伏しているような姿だ。