鯨のうた

「話しはそれだけ?もう行っていい?休憩時間がなくなっちゃう」
「―――あっ、ちょっと待てよ!」
「もう、まだ何かあるの?」

戻る為に一歩踏み出した足を止め、わたしは振り向く。

航はまだ何か言いたげな表情でわたしを見ていた。

「忘年会は、お前も参加しろよ」
「忘年会?···あぁ、そういえばそんな話あったね」
「営業部だけの忘年会だから、雨龍課長の邪魔も入らないし」
「邪魔って···」
「とにかく!忘年会は、ぜっっったい来いよ!絶対だからな!」

航は強くそう言ったあと、早足で歩き始めた。

「あ!航!ちょっと!」

勝手に言って、勝手に立ち去って行く航。
わたしはその後ろ姿を見つめ、小さな溜め息をついた。

すると、航の姿がなくなったと思えば、今度は入れ替わりで雨龍課長がこちらへ歩み寄って来た。
まるで、航とわたしの会話が終わるのを待っていたかのようなタイミングだった。

「お疲れ様」
「雨龍課長、お疲れ様です」
「竹浪くん、何だって?」
「えっ、あぁ···営業部で忘年会があるんですけど、絶対来いよって言われて···」

わたしがそう言うと、雨龍課長は「んー、なるほど」と唸りながら腕を組んだ。

「さすがに営業部の忘年会に総務の俺は行けないしなぁ」
「総務は総務で忘年会あるんですよね?」
「うん、まあね。でも露草さんが居ない忘年会なんて、楽しみでも何でもないよ」

そう言って雨龍課長は口角を下げ、口をへの字にした。

「営業部の忘年会はいつ?」
「来月です。第一週目の金曜日の19時からだったと思います」
「じゃあ、帰り···迎えに行くよ」
「え?!でも、何時に終わるか分からないですよ?」
「大丈夫。そんな事より大切なレディーを夜道一人で帰す方が心配だから」

雨龍課長はそう言うと、ふっと優しい表情を浮かべた。

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