鯨のうた
「クリスマスってさ···、予定ある?」
航の発言に「クリスマス?」とわたしは聞き返す。
(クリスマスだなんて、まだ先の話だと思ってたけど、今月なのか···)
「クリスマスは普通に仕事あるじゃない」
「そうだけど、仕事終わってからだよ」
「仕事終わってからは···特にないけど―――」
わたしがそう答えると、航は小さなガッツポーズをし「勝った」と呟いた。
「じゃあ、次は俺とデートしてもらうからな」
「えぇ?!」
「なんだよ、予定ないならいいだろ。俺とも時間つくってくれよ」
押し気味にそう言う航に、わたしは押し負けしてしまいそうになる。
(航と、デートかぁ···)
前回は雨龍課長との約束があったから断れた。
けど、予定もない今、断る理由が見つからない。
わたしは仕方なく「あまり、帰りが遅くならなければ···」と返事をし、わざと航から視線を反らした。
「よし、絶対な?約束だぞ」
そう言って満足気な航は、新しい生ビールを注文し、ハイペースで飲み始めた。
クリスマスに航とデート―――
そんな事になるだなんて、今まで想像も出来なかった。
上機嫌な航は、食べ物をつまみながら仕事の愚痴を溢してくる。
それは主に中谷さんへの不満だった。
「ミスは多いし、期限は守らないし···気も使えないし、はぁ···、千衣のままが良かったなぁ〜」
(そんな事を言われても···)
わたしは航の愚痴を聞きながら、それが中谷さんに聞こえていないかヒヤヒヤした。
幸い中谷さんの座っているテーブルは遠く、恐らく聞こえてはいないはず―――
わたしにとって、忘年会の時間は長く感じた。
時間を確認しては(まだ終わらないかなぁ···)と思い、それと同時に雨龍課長の事が気になっていた。
(雨龍課長、本当に帰り迎えに来るつもりなのかな···)
航の話を半分聞きながら、雨龍課長の事を考えるわたし―――
隣に航が居ても、わたしの心は雨龍課長の方を向いているのだった。