鯨のうた
「竹浪くんとのデートは仕事終わってから?」
真っ直ぐ前を見たまま雨龍課長は言う。
わたしは「あ、はい···そうですけど」と返事をし、雨龍課長を盗み見していた視線を反らした。
「じゃあ、千衣には申し訳ないけど、クリスマス当日の休憩時間、俺と過ごしてもらえないかな?」
「え、全然いいですけど」
「本当?ありがとう。クリスマスは、千衣···大忙しになるね。男二人の相手して」
「男二人の相手って···何か、わたし男たらしみたいじゃないですか」
わたしが不満気にそう言うと、雨龍課長はクスッと笑い「違うよぉ。そういう意味じゃなくて、モテる女性は大変だなぁ〜って思ってさ」と言った。
「いやぁ···いまだかつて、わたしモテた経験なんて無いんですけど···」
「そうなの?それは、周りの男たちが見る目なかったって事だね。千衣はとても魅力的な女性だよ」
「そんなぁ、またまた···」
「いや、本当に!」
雨龍課長はそう言ってくれるが、わたしは本当に今までモテてきた経験がない。
今までの恋愛は、いつもわたしが追いかけているような状態だった。
男性側が優しいのは、最初だけ―――
そしたら、いつの間にかわたしが好きになって、好きになってもらえるように努力して···付き合ったとしても、わたしはいつも相手の機嫌を損ねないように気を張りながら接してきた。
いつだってそうだった―――
だから、こんなに相手から好意を向けてもらえて、押されて、尽くされる事なんて無くて、今の状況に戸惑っている自分がいる。
(こんなわたしの、どこがいいんだろう···)
わたしは、それが不思議でならなかった。