鯨のうた

***


あの忘年会から、わたしはいつもと変わらぬ日常を送っている。
いや、これが"いつもと変わらぬ日常"なのか、分からなくてなってきていた。

営業部内では、やたらと航の視線を感じ、その視線から解放されるのは航が取引先に出向いて外出している時くらいだ。
それから、週に一度は雨龍課長からのお誘いがあり、その際はお馴染みの"第3資料庫"での休憩時間を過ごした。

段々と冬らしくなってきた凍て付く空気は、暖房がついていない"第3資料庫"に冷たい雰囲気を漂わせているが、雨龍課長が用意してくれている電気ストーブのおかげで何とか凌ぐことが出来ていた。


12月なのに、いまだに降りそうで降らない雪。

今年のクリスマスは雪がないんじゃ?なんて思っていたが、まるで神様は分かっているかのようにイブの前日から雪は降り始め、クリスマス当日はすっかり白い景色に包まれたホワイトクリスマスとなっていた。

「うわぁ〜、とうとう積もり始めてきたねぇ」

オフィスの窓から外を眺め、国枝さんが呟く。
わたしたちが暮らす地域では、雪は当たり前に降り、何なら鬱陶しく感じる程だ。

一番嫌なのは、一気に降るドカ雪。
そうなると交通状況も悪くなり、朝の通勤ラッシュなんかは大混雑になるのだ。

「川口さん、F社から"ラッシュアップ"のシャンプーとトリートメント追加納品お願いしますって連絡きたので、対応しておきました」
「あ、ありがとう。露草さん、助かるよ」
「K社からも在庫確認のメールきてましたけど、確認しました?」
「あー、それまだしてない!」
「じゃあ、わたし確認して返信しときますね!」
「露草さん、本当助かるよ〜!」

クリスマス当日になり、あちこちの取引先からこのような連絡がくることは想定済みだった。
その為、先読みして行動する事には慣れている。
わたしはミスや確認漏れがないよう気を付けながら、バタバタな午前中を過ごした。
< 65 / 123 >

この作品をシェア

pagetop