鯨のうた
すると、お昼休憩を迎えようとする時間に営業部内で航の怒鳴り声が響き渡った。
「何やってんだよ!!!さっきも言ってあっただろ!!!何度同じ事言わせるんだ!!!」
「申し訳ありません···」
どうやら、中谷さんが何かをやらかしてしまったらしい···
航は怒りが収まらずに頭を掻きむしり、思い切りデスクに拳をぶつけていた。
「まぁまぁ、竹浪くん。落ち着いて」
そう言って航を宥めようとしているのは、営業部課長の倉田課長だ。
倉田課長は、怒った姿を見たことがないほど穏やかでいつものほほんとしているイメージのおじいちゃんといったところだろうか。
航は倉田課長に肩を揉まれ、宥められ仕方なく落ち着きを取り戻していっているようだった。
そんな騒がしい営業部のオフィスをこっそりと抜けたわたしは、足早にエレベーターへと向かう。
そう、今日のお昼休憩は雨龍課長と約束しているからだ。
エレベーターに乗り7階まで来ると、誰も居ない静まる廊下にわたしのヒールの音が響き渡った。
そして向かう先は、もちろん"第3資料庫"。
中に入ると、奥のカーテンの向こう側からは温かな光が漏れており、既に雨龍課長が来ている事が知らせる。
わたしはそっとカーテンを開けて中を覗くと「お待たせしました」と言い、中へ入った。
そこに居た雨龍課長は、「来てくれてありがとう」と言うと、隣に腰を掛けたわたしに「今日は寒いからね」と言って、肩から毛布を掛けてくれた。
「ありがとうございます。あったかい」
微かに雨龍課長の匂いがする毛布。
わたしはその匂いを何もしていないフリをしながら、こっそりと嗅ぐ。
雨龍課長の匂いは、何故かわたしを安心させる香りなのだ。