鯨のうた
それから雨龍課長のお手製弁当を完食し掛ける時、雨龍課長が「あのさ、千衣」とわたしを呼んだ。
突然名前を呼ばれ、わたしはドキッとする。
(雨龍課長に下の名前で呼ばれるの、まだ慣れない···)
「はい」
「実はさ···、本当は今日、クリスマスだし千衣にプレゼントを用意したかったんだ。でも、付き合ってもいない男からのプレゼントなんて、ただ単に俺の自己満足になるだけだけだよなぁ〜って思って」
「あ、いや、本当にそんなわたしはこのお弁当だけで充分なので!」
わたしがそう言うと、雨龍課長は優しく微笑んだ後で「ありがとう」と言った。
「でもね、その代わりというか···千衣に聴いてほしいものを持って来たんだ」
「聴いてほしいもの?」
(なんだろう?)
検討もつかずにわたしがぽかんとしていると、雨龍課長はお弁当を入れてきたバッグに手を入れ、中から何かを取り出した。
それは、古いカセットテープだった。
「えっ?!めちゃくちゃ懐かしい、、、小さい頃に見た時以来です」
「でしょ?」
そう言って雨龍課長は、イヤホンを繋ぎ、その片方をわたし差し出した。
「これ、聴いてみて」
わたしはそれを受け取り、ゆっくりと耳につける。
すると、イヤホンの向こう側からは今までに聞いた事が切ない声が聞こえてきた。
切なくも神秘的な高音の鳴き声―――
わたしは目を閉じて、その声に聴き入った。
まるで別の世界に引き込まれていきそうになった。
「綺麗···」
わたしがそう呟くと、雨龍課長は「これは、"鯨のうた"だよ」と言った。