鯨のうた

中原専務が廊下を歩いて行き、曲がり角を曲がり姿が見えなくなると、雨龍課長は抱いていたわたしの肩から手を離し、顔の目の前で両手を合わせ「露草さん、話を合わせてくれてありがとう。本当に申し訳ない」と言った。

「えっ、あ、いや、突然でビックリしましたよ」
「そうだよね、申し訳ない!お詫びに飯ご馳走するから!」
「いや、そういう問題ではなくて···、中原専務にあんな嘘を言ってしまったのは···ヤバくないですか?」

わたしが苦笑を浮かべながらそう言うと、雨龍課長は「あー···」と納得の後悔を溢すと、後頭部に手を置いていた。

そう···―――中原専務は、"口が軽いお喋り"で有名なのだ。

「"内密に"なんて言っても、中原専務が黙っていてくれるとは思えないんですけど···」

わたしがそう不安を漏らすと、雨龍課長は呑気に「まぁ、噂になったらなったで、その時はその時だよ!」と言った。

「いやいや!何でそんな呑気なんですか!そんな噂が流れたら、わたしが大変になるんですよ!」
「あっ!もしかして、露草さん彼氏いた?!それなら―――」
「いや!彼氏はいません。そうじゃなくて、雨龍課長···ご自分が社内で人気あるのは認識してますよね?そんな雨龍課長の恋人がわたしだなんて噂が流れたら、わたしこの会社に居られなくなりますよ!」

わたしがそう訴えると、雨龍課長はキョトンとした表情で「え、なんで?」と、本当に何も分かっていない様子で言った。
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