鯨のうた

それから店内に入った航は、店員さんに自分の名前を名乗り、すんなりと席へと案内してもらえた。

初めて入るお店。
木の香りが漂うような温かい印象がある内装に、客層はカップルが多そうだ。

(やっぱりクリスマスだからかな)

そんな事を思いながら席に着くと、航はメニュー表を開き「千衣は、どれにする?」と訊く。

航と向かい合せに座り、ふと思ったのだが、航と二人きりでご飯を食べに来るのは初めてだ。

(なんか、変な感じ···)

そしてわたしが選んだのは、タラコと水菜のパスタ。
航は、カルボナーラを注文していた。

「ここは、本来の目的地じゃないから、食べたらすぐ店出るからな」
「えっ、そうなの?次はどこに行くの?」
「それは、着いてからのお楽しみ」

そう言って、目的地に焦らす航だが、正直わたしの心は踊らなかった。

航と二人きりで、しかもデートしている自分が信じられない―――

何だか居心地が悪くそわそわしてしまう自分がいて、そしてなぜか、この姿を雨龍課長に見られたくないと思ってしまったのだった。


混み合っているせいか、料理が運ばれてくるのに少し時間がかかった。
それに少し苛立ちを見せる航。

(イライラするなら、このお店にしなくても良かったのに)

そう思ったが、運ばれてきたパスタは、やはり人気があるお店なだけあり、とても美味しかった。
ボリュームもあり、わたしには少し量が多いくらいだった。
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