鯨のうた
「航の馬鹿!」
わたしはそう言い放つと、航に背を向け歩き始めた。
そんな後ろからは「おい!千衣!どこ行くんだよ!」と言う航の声が聞こえてきたが、わたしは振り返る事なく「帰る!」と言い返し、そのまま水族館をあとにした。
それからわたしは近くでタクシーを拾うと、自宅に向けて走ってもらった。
「はぁ···」
自然と溢れる溜め息。
(わたしは、何してるんだろ···)
ふと窓の外を見ると、幸せそうに手を繋ぎ、笑い合う恋人たちばかりが目に付いた。
しかし、わたしは―――
気付けば、わたしは涙を流していた。
でも、これは何の涙なのか自分でもわからない。
ただ、虚しくて、無性に寂しくなった。
そんな時に一番最初に思い浮かんだのは、雨龍課長の顔だった。
(···雨龍課長に、会いたい―――)
わたしはそう思いながら、チラチラと雪が降る街中を通り過ぎ、帰路についていた。