鯨のうた
「竹浪くんに"負けない"とか、かっこつけたくせに···俺はこわくなったんだ。千衣が竹浪くんを選んで···、またこうして会う事が出来なくなる事を······」
そう言って、雨龍課長はゆっくりとわたしの手首から手を離した。
「雨龍課長···、それは違いますよ」
「えっ」
「わたしは、航とは···確かに同期で仲は良いのかもしれませんが、航を一人の男性として見たことはありません」
わたしの言葉に雨龍課長は黙って耳を傾ける。
わたしは雨龍課長と向き合い、自分の素直な気持ちを伝えた。
「わたし、寂しかったんです。あのクリスマス以来···雨龍課長と会えなくて。もしかして、嫌われちゃったのかな?って不安になってました」
「そんなわけないよ」
「それを知れて、わたし···ホッとしました。それから、航には···きちんと伝えました。航とは、同期のままの関係でいたいって―――」
わたしがそう言うと、雨龍課長は小さく「えっ···」と驚きを漏らし、そして真っ直ぐにわたしを見つめていた。
「わたしは···、優作(ゆうさく)さんの事が、好きです」
その言葉を口に出す事で、わたしの身体中が熱を帯びる。
心臓の鼓動も耳に響くほどうるさくなった。
すると次の瞬間、わたしは優しさに包まれるのを感じる。
気付けばわたしは、雨龍課長の腕の内にいて、優しく包み込まれていたのだ。
「千衣···、下の名前で呼んでくれたね」
耳元で甘く優しい雨龍課長の声が響く。
わたしはその声にドキッとしながら、「約束だったので···」と答えた。
雨龍課長はゆっくりと腕を緩めると、優しい眼差しでわたしを見下ろした。
「露草千衣さん、俺もあなたの事が好きです。俺と···付き合ってください」