鯨のうた
「でもさ、今···千衣には、俺がいる」
優作さんはそう言うと、わたしの手を取った。
「俺等、孤独な者同士だから···、俺には千衣の声が聞こえてるよ。だから、もう心配いらない」
優作さんの手は、温かかった。
温かくて、優しくて···なぜだが、涙が溢れ出してきた。
それは今まで流してきた涙とは違う、幸せの涙だ。
そんなわたしを優作さんは抱き締めてくれた。
ただ黙って、抱き締めてくれた。
冷めきっていたわたしの心には、温かすぎる優作さんのぬくもりに涙が止まらなかった。
枯れ果てた花が水を喜ぶように、わたしの心が満たされていくのを感じた。
それからひとしきり泣いて落ち着いたわたしは、烏龍茶を飲む。
そんなわたしに優作さんは、ある提案をしてきた。
「ねぇ、千衣。年末年始、うちで一緒に過ごさない?」
優作さんの提案から、わたしは年末年始休暇を優作さんの自宅で過ごす事にした。
一度自宅に戻ったわたしは、着替えを持ち、再び優作さん宅を訪れる。
まさか、こんなすぐにお泊まりになるとは思わなかったが、わたしももう良い大人だ。
男性の家に泊まるという事がどういう事なのか、そんなことは理解している。
恋人同士になったのだから、拒否をする理由もない。
しかし、お泊まりの一日目は、優作さんと同じベッドで眠ったが、身体の関係はおろか、キスすらもしなかった。
正直、キスくらいはするものだと思っていた。
(わたしの気が早い?それとも···わたしに女としての魅力がないのだろうか)
焦ることでもないのかもしれないが、不安になってしまう自分がいる。
(大丈夫、わたしは優作さんを信じてる。優作さんは、紳士なだけだ)
わたしは自分にそう言い聞かせた。