鯨のうた

夕飯を終え、お腹がいっぱいになったわたしたちは、晩酌をしながらソファーに並んで座っていた。
一応テレビは見ているものの、内容はあまり頭に入ってこない。

(甘えたいけど···、どうしよう···)

今まで自分から甘える事が出来てこなかったわたしは、どう甘えたら良いのか分からず、なぜか一人でもじもじとしてしまう。

そんな時に思い浮かんだ事があった。

「あっ!ゆ、優作さん」

わたしがそう呼ぶと、優作さんはハッと驚いたようにこちらを見て、優しく「ん?なに?」と言った。

「わたし···また、前に聴かせてもらった、"鯨のうた"聴きたいんですけど···」
「あっ、いいよ!ちょっと待ってて」

優作さんはそう言うと、ソファーから立ち上がり、わたしの頭にポンッと優しく手を置いてから、カセットテープを取りに行った。

(頭···ポンされた!)

そんな事でドキドキしてしまうわたしは、まるで中学生のようだ。

そして少し待つと、優作さんが戻って来た。

「お待たせ〜」

そう言って再びわたしの隣に腰を掛ける優作さんは、イヤホンの片方をわたしに差し出してくれた。

「はいっ。一緒に聞こう」

イヤホンを受け取ったわたしは「はい」と返事をして、イヤホンをつける。
すると優作さんはテレビを消した後でイヤホンを耳につけた。

二人で同じ"鯨のうた"を聴く。

わたしは目を閉じて、"鯨のうた"を聴き入った。

(綺麗な声···)

そうしていると、わたしは自然と優作さんの肩に頭を寄せ、寄りかかっていた。

とても幸せな時間―――

わたしは胸がいっぱいになり、生きている実感がした。

今まで、"生きていて良かった"なんて思ったことなどない。
でも、今この瞬間は思える。

(生きてて良かった···)

すると優作さんの肩が微かに動くのを感じた。

(あ、嫌だったかな)

そう不安に思い、ふと目を開けてみると、すぐ目の前に―――
鼻が触れる距離に優作さんの顔があり、そしてそのまま優作さんの唇が触れた。

唇に優作さんの唇が重なり、一瞬何が起こったのか驚いたが、わたしの心が喜んでいるのを感じた。
そしてわたしは、優作さんと唇を重ねたまま、ゆっくりと目を閉じた。
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