鯨のうた
わたしは体育座りをしながら、優作さんに寄りかかった。
後ろからは優作さんの腕がわたしを包んでいる。
スーツを着ている時はスラッとして見える優作さんだが、実際には胸板が厚くしっかりとした男らしい体付きで、わたしはそれを背中で感じ取っていた。
「千衣、緊張してる?」
「そりゃあ···緊張しますよ」
「だよね。俺も緊張してる」
優作さんの言葉にわたしはチラリと振り向く。
「えっ、優作さんも緊張してるんですか?」
「当たり前だよぉ。してないように見せてるだけ」
優作さんはそう言って、ハハッと笑った。
「―――千衣さぁ、もしかして、自分のこと責めたりしてない?」
「えっ···」
「やっぱり?」
「だ、だって···、わたし昨日···あんな事言っておいて、先に寝ちゃったから···」
わたしはそう言うと、足を寄せ縮こまった。
そんなわたしを優作さんは後ろから優しくギュッと抱き締める。
わたしの右頬に優作さんの頬が触れていた。
「気にしないでよ。俺たちの時間は今だけじゃない。これからたくさんの時間を一緒に過ごせるんだから」
優作さんの優しさにわたしの気持ちが解れていく。
わたしはその言葉に「···はい」と小さく頷いた。
「千衣は、今までずっと女性を拒否し続けてきた俺の心を動かした唯一の人だよ?そんな簡単に手放すわけない。というか、離すつもりなんてないから」
「わたしも離れるつもりなんて無いですよ」
「なら良かった。まあ、離れるって言っても離さないけどね」
そう言って、わたしたちは「離れるなんて言いませんよ!」「本当に〜?」なんて言い合った。
それからふと目が合い、お互いに一瞬ハッとしたが、わたしたちはお互いに引き寄せられるように唇を重ねた。
最初は触れるくらいのキス。
一度離したが、再び口付けて、それから長く深いキスに代わっていった。
初めてだった。
キスを気持ち良いと思ったのは―――
長いキスの後でお互いに息を切らしていたわたしたちは、鼻が触れ合う距離で見つめ合い、そして微笑み合った。