鯨のうた

お風呂から上がると、優作さんはわたしが湯冷めしないようにと、バスローブを用意してくれていた。

「ありがとうございます。でも、優作さんは?」

自分のバスローブをわたしに貸してくれた優作さんは、バスタオルを腰に巻いていた。

「俺は平気だよ。ほら、ここ座って」

そう言って、優作さんはお洒落な洗面台の前に折りたたみ式の椅子を置いた。
わたしはそこに腰を掛け、鏡と対面になる。

すると、優作さんは洗面台の棚からドライヤーを取り出し、わたしの髪を乾かし始めた。

「男の人に髪を乾かしてもらうなんて、美容師さん以外で初めてです」
「えっ、そうなの?」
「はい。こんなに尽くしてもらったことないですよ」

わたしがそう言うと、優作さんは鏡越しにわたしを見て微笑み、そして「今までは、千衣が尽くしてきたんだね」と言った。

「じゃあ、今度は尽くされる側にならないと。これからまだまだ、尽くさせてもらうよ」
「えっ!わたし、そんなつもりは!」
「いいからいいから。それに、"尽くそう"って思って無理にしてるわけじゃないし。俺がやりたくてやってるだけだしね。それで千衣が喜んでくれるなら、それ以上の事はないよ」

程良い暖かさのドライヤーの熱に、わたしの髪を撫でる優しい優作さんの指―――

(心地良い)

こんな至福なお風呂上がるがあるだなんて、わたしは知らなかった。

それから大体、髪を乾かし終わり、ドライヤーを止める。

「こんな感じかな?」
「ありがとうございます」

そうしてわたしは櫛を借りようと、優作さんの方を振り向いた。
その瞬間―――

「わあっ!」

突然、身体が宙に浮いたのだ。
何とわたしは、優作さんにお姫様抱っこをされていた。

「軽っ」
「え!いや、重たいですって!」
「それじゃあ、寝室に参りますよ〜姫」
「自分で歩けますよ」

そう言いながらもわたしは優作さんに抱き上げられたまま寝室に向かい、ベッドの上にゆっくりと下ろしてもらった。

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