この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
なりすましのお見合い
緊張する場面なら、これまで何度も経験してきた。
面接や試験の直前、大事な話を切りだすとき、大勢の前で発表するときなど数え上げればきりがない。
それなのに今、自分が置かれている状況には、これまで経験したことがないほど強い緊張を覚えていた。
立原帆奈美、二十七歳。只今、お見合い相手と初対面を迎えるところである。――それも、まったくの別人として。
高級と名高いホテル、ラ・ルーチェのラウンジは土曜日の午後ということもあり、穏やかな空気が流れている。二階層吹き抜けの空間は開放感に溢れ、大きな窓からは手入れの行き届いた中庭が見渡せる。五月中旬の爽やかな風に乗り、モンシロチョウが二羽、仲良くひらひらと舞っていた。
それらを横目にしながら、お目当ての人物の場所までラウンジスタッフに案内されていく。分厚い絨毯が敷かれているため足音が響かず、足取りのぎこちなさを誤魔化せるのはありがたい。とはいえ呼吸は先ほどから浅く、肩がわずかに上下していた。
サーモンピンクのワンピースを身にまとい、長い髪は緩くハーフアップ。いつも眉を描いて色付きリップで済ませているメイクも、今日は見よう見まねでしっかりしてきた。
イメージは良家のお嬢様。おかげで切れ長の目元は、少しだけ優しい印象になっているはずだ。とにかく今日は嘘がバレないように徹しなくてはならない。
「こちらでございます」
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