この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 「片づけは俺がやるよ」
 「宏臣さんはお客様なんだから、座っててください」
 「まぁそう言うな」

 そんなやり取りをしながら並んでキッチンに立つ時間さえ、どこかくすぐったくて心地いい。
 水音が止み、ふと静けさが戻ったとき、不意に背後から抱き寄せられた。

 「……宏臣さん?」

 振り返るより先に、肩口に顔を埋められる。

 「久しぶりだからな」

 どこか甘い声に、体の奥が熱を帯びる。

 「腹は満たされたけど、肝心なものが足りてない」

 そのひと言だけで察してしまう。
 ゆっくりと体の向きを変えられ、視線が絡む。逃げ場なんて最初からないとわかっていながら、鼓動だけが落ち着かない。

 「帆奈美は?」

 問いかける声は穏やかなのに、逃がす気などまったくない響きを含んでいた。

 「……私も」

 頷きながら答えると満足そうに目を細め、次の瞬間にはもう唇が重なっていた。
 昼の明るさの中で交わすキスはどこか背徳的で、それでいて甘い。さっきまでの軽口とは違う深い熱が、じわじわと広がっていく。
 そのまま腕を引かれ、ベッドのほうへ導かれる。抗う理由なんてどこにもない。

 久しぶりに触れ合う体温をたしかめるように何度も名前を呼ばれて、そのたびに体がほどけていく。宏臣の母親に反対されている不安も、隠しごとの後ろめたさも、すべて溶かされていくよう。
 こうして触れ合っている時間だけは、なにもかも忘れていられる。

 そうして翌日の日曜日まで、久しぶりにふたりきりの甘い時間を心ゆくまで過ごした。
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