この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 穏やかに返すが、内心ではべつのことを考えていた。

 (近づいてきた男、か……)

 帆奈美の周囲に、そんな存在がいるとは思えない。

 (――いや、待てよ)

 宏臣はふと、帆奈美の不自然な様子を思い出した。
 かかってきた電話に出ず、母親からだからいいと。それも二度、同じことがあった。目を泳がせる彼女に違和感を覚えたのは事実だ。
 宏臣と会う約束を、体調不良を理由に断った日もあった。

 (まさか、帆奈美に近づいている男がいるのか――)

 宏臣が顔を上げると、母は薄ら笑みを浮かべていた。

 (それとも、母さんがなにか……?)

 『近づいてきた男に、ころっとほだされるのが女の性よ』など、まるで見てきたような言い草だ。宏臣には確信めいて聞こえた。

 (どちらにしても帆奈美は誰にも渡さないし、手放すつもりもない)

 宏臣は膝の上でそっと拳を握った。
 凪子に覚えた違和感も、帆奈美に近づいているかもしれない男への燃えるほどの嫉妬も、その場は静かに飲み込む。
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