この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
その夜、帆奈美は帰宅するや否や、スマートフォンの通話履歴に並ぶ愛理の名前をタップした。
バッグをベッドに置き、ラグの上に腰を下ろす。
社会人になると同時にひとりで暮らしはじめた1Kのアパートは、飾り気のないシンプルな部屋だ。小さなテーブルとベッド、壁際には背の低い本棚がひとつ。必要なものだけを置いた、さっぱりした空間である。
《帆奈美ちゃん、今日はずいぶん早い時間ね。どうかしたの?》
優雅に紅茶でも飲んでいそうなのんびりした受け答えに、思わず肩の力が抜ける。
「どうしたもこうしたも、お昼に東城さんに会ったの」
《え? 約束してたの?》
さすがに電話の向こうの声が一段高くなる。
「まさか。愛理のご両親には、なにか連絡ない?」
《うん、ないよ。だけど、どこで会ったの?》
「オフィス街のベンチのところ」
そのときの経緯を話すと、愛理は《なにそれ、ドラマチック!》と声を弾ませた。よからぬ方向へ動き出しているのだから、もっと真剣になってほしい。そもそもこの案件は愛理が当事者なのだから。
「この際、正体を明かしたほうがいいんじゃないかと思うんだけど」