この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
それから何事もなく十日が過ぎた。
今回の縁談をなしにしてほしいと、父親にお願いしたという報告は愛理からない。でも、また連絡すると言っていた宏臣からなんの音沙汰もない点を考えると、無事に決着がついたと考えてもいいのではないか。
ようやく重い役目から解き放たれて心が軽い。
(本当によかった)
ほっとした反面、胸の奥に小さな空洞のようなものが残っているのもたしかだった。
もう会うことはないのだと思うと、ほんの少しだけ寂しい。
理由は自分でもわかっている。宏臣が、推しの話をあんなふうに聞いてくれた初めての人だったからだ。
普通なら途中で話題を変えられるか、やんわり笑って流される。ひどいときは露骨に興味のない顔をされることだってある。それが推し活というものだと、帆奈美もよく知っている。
けれど宏臣は違った。適当に合わせている感じではなく、本当に理解しようとしてくれているのが伝わってきた。
だからつい、夢中になってしまったのだ。
舞台のこと、男役の魅力、推しの素敵なところ。今思い返しても、あれだけ誰かに熱く語ったのは初めての気がする。
(……楽しかったな)
気づけば、小さく笑みが浮かんでいた。