追放された侯爵令嬢の幸せと、彼女を捨てた者たちの末路

第09話 アルセイン家の崩壊

(……実に見苦しいものだな)

 私は静かに広間の隅からその光景を眺めていた。
 この国の最も古き名門――アルセイン侯爵家の当主、ギルベルト・アルセインが廷臣たちに囲まれ、そして次々と責め立てられている。

「公務を私的に利用し、政敵を扇動した疑いがあるぞ!」
「先日の件……令嬢セレスティア殿の反逆行為にも、黙認の責を問うべきではないか1」
「王家の威信を損ねた責任は決して軽くはあるまい……」

 皆、まるで最初から彼自身を信用していなかったかのような口ぶりだ。

(つい昨日まで、【侯爵閣下】などと持ち上げていたくせにな)

 だが、そんなことを言うのは野暮というもの。
 これが貴族社会の常だ。
 情など、利に敵わない。正義など、風向き一つでどうにでもなる。
 あのアルセイン家は、時代に乗り遅れたのだ。
 硬直した名門、誇り高いばかりで周囲と手を組む柔軟さを欠き、同時に娘は潔癖で父は頑固――ふん、滅びるべくして滅びたというわけだ。

「まこと、残念なことですな……」

 私はわざとらしくため息をつきながら、王妃のもとへと歩み寄る。

「一時は、あのセレスティア殿が次期王妃とまで囁かれましたが……まさか、ここまでの裏切りをなされるとは」

 私のその言葉を聞いて王妃は、薄く微笑んだ。

「正しすぎる者というのは時に国を乱すものです……私たちは、正しい決断をしただけ」

 その声は穏やかだったが、底にあるものは氷のように冷たい。
 彼女がどれほど今回の【粛清】と言うものを仕組んだか、私は知っている。
 だが、そんなことは口にしない。
 なぜなら我々もまた、その流れに乗った者なのだから。
 利を得る者が、勝者。正義の名の下に、誰を切り捨てようと、それで国が安定するなら――それでいい。

「アルセイン家の屋敷は、国庫に編入されるのか?」
「ええ。彼らが保有していた鉱山利権も、再分配の対象となるでしょう」
「ふむ……それは誠にありがたい。国のため、ですな」

 静かに口元に笑みが浮かぶ。
 忠誠という名の下で、私たちは己の【利益】を守った。
 そしてそれを、誰も咎めはしない。

 だが、ふと――追放されたあの娘の、毅然とした姿が脳裏をよぎった。

 正しさを捨てず、誰にも媚びず、立ち去っていった女。
 あれは、あれで――少し、惜しかった気もする。

(……だが、時代は変わる)

 老いた獅子は、若い狼に喰われる――貴族の世界も同じだ。
 動かぬ名門など、ただの足枷にすぎぬ。
 私は杯を手に取り、静かに呟いた。

「……所詮、あれほどの家でも、時代に乗り遅れれば潰れるのだよ」

 それが、貴族社会の摂理だと、私は考えている。
 冷笑とともに、私は静かに杯を傾けた。
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