今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
「ただ、数字にならない価値だけでは、現場は動きません」
営業部の一人が口を開く。
「販売店向けの説明会で、〝どう売れるのか〟を具体的に示す必要がある」
「その点については、我々も十分承知しています」
そう言って、快浬さんは新たなスライドを映した。
「〝今日はここまでライト〟搭載モデルには、〝ちょっと気遣い〟洗い物の量によって、自動で水洗いする機能を持たせました」
棒グラフと折れ線グラフが並ぶ。
「仮説段階ではありますが、〝ライト搭載家庭〟では、月あたりの自炊回数が、非搭載家庭より平均一・七回多い傾向が見られました」
「一・七回……」
「この〝自炊回数の差〟を、〝時短〟〝健康意識〟〝キッチン満足度〟に換算していくことで、販売店や施主様への〝長期的な価値提案〟に変えられます」
商品企画部の係長が、ゆっくりと頷く。
「〝暮らしの継続率〟を売る、というわけだね」
「はい。暁は、〝買った瞬間の華やかさ〟ではなく、〝十年後も使われているキッチン〟を目指します」
わたしも続けて、
資料の中のユーザーインタビューの一文を指差した。
「『どこのキッチンを選んでも、結局片づけるのは自分だから』。こう言っていた方がいました。そう思っている人たちに、〝暁のキッチンなら、少しだけ楽になるかもしれない〟と伝えられるのが、この〝片づき完了システム〟です」
前職で、
自分の企画が理想論と切り捨てられたときの悔しさが、
胸の奥から蘇る。
「あのとき、私は何も言い返せなかった。でも、今度は違います。快浬さんたち開発チームが、現場と何度もやりとりしてくれて、工場のラインまで変えてくれた。営業の皆さんも、〝これなら話題になる〟と言ってくれた」
営業トップが、戸惑ったような表情をする。
「ここで数字だけを優先して、〝どこでもいいキッチン〟に戻ってしまったら、お客様に対して『暁は、本気であなたの暮らしを楽にしたいわけではありません』と言っているのと同じだと思うんです」
言い終えたとき、
わたしの手は震えていた。
そのとき、隣から声がした。
「僕も、春日さんの意見に賛成です」
快浬さんだった。
「数字の不安は分かります。でも、僕たちはこの一年、〝暁にしかできないキッチン〟を作るために走ってきた。その核を手放してまで、数字だけに捉われすぎたら、長期的に見てブランドを傷つけるだけです」
快浬さんは、視線を営業陣に向けた。