今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
「久しぶり。暁のイベント、一般枠で申し込んじゃった」
玲奈《れいな》と名乗るその女性は、
受付をすませると、
当然のように快浬さんのほうへ歩み寄ってきた。
「この人と付き合ってたとき、〝キッチンの話しかしない男〟でさ」
開口一番、そんなことを言う。
「〝将来のためだから〟って、よく聞かされてたけど。こんなところで役に立つとは思わなかったなあ」
笑いながら、快浬さんの腕を軽く小突く。
動きが、自然すぎるほど自然だった。
「玲奈。今日は一般参加者として来ているんだから、あまり――」
「はいはい、〝立場をわきまえろ〟でしょ? 相変わらず真面目」
玲奈さんは、
わざとらしく肩をすくめて見せる。
「ところで、その子が噂の子?」
その瞬間、空気がぴたりと止まった気がした。
「噂の……?」
視線が、まっすぐわたしに向けられる。
「春日小春です。本日はご参加ありがとうございます」
条件反射で営業スマイルを作りながら、
内心では、心拍数が上がり続けていた。
「あ、自己紹介ちゃんとしてくれるんだ。えっとね、私は玲奈。この人の元カノ」
さらっと言われて、
周囲のスタッフ数名の手が止まる。
「前にちょっとだけ話題になってたよ、〝開発本部長の隣でバタバタしてる新人ちゃん〟って」
「だれがそんな話を」
快浬さんが、わずかに眉間にしわを寄せる。
「ほら、業界の飲み会とかでさ。〝最近、暁の坊ちゃんの横に、やたら頑張ってる子がいるらしい〟って」
〝坊ちゃん〟という言葉に、
わたしの胸がちくりとする。
「まあ、今日ちゃんと見てあげるから“、〝この人の隣に立つ子としてどうか〟って」
玲奈さんは、
にこりと笑って、エプロンを受け取った。
——……何、それ。
マウントを取られていると分かっていても、
笑顔を崩すわけにはいかなかった。