今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜



「春日さん、大丈夫?」



高梨さんが、肩越しに声をかけてきた。



「顔が、〝プリンター機壊れました〟ってときの顔になってるよ」



「そんな顔してました?」



「してた。でも、本当に壊れてるのは、〝プリンター機〟じゃなくて〝社内の空気〟だよね」



高梨さんは、
紙コップのコーヒーを二つ持ってきて、
ひとつをわたしの前に置いた。



「聞いちゃった?さっきの、〝逃げたんじゃないか〟ってやつ」



「……はい」



「まあ、誰かが言うだろうとは思ってたけど」



高梨さんは、コーヒーを一口飲む。



「シェア一位奪還って、社内的には〝でかい花火〟なんだけどさ。外から見れば、〝それでも二位と誤差レベル〟なんだよね」



「……」



「数字がほんの少しでも落ちたら、〝ほらみろ〟って人は簡単に言う。そういう空気の中で、〝舵取り役〟の快浬さんが突然いなくなったら、そりゃあ、まあ〝逃げた?〟って言う人は増えるよね」



その言い方は、快浬さんを責めるものではなく、〝人の弱さ〟の説明に近かった。



「だけどさ」



高梨さんは、視線をわたしに向ける。



「春日さんは、快浬さんが本当に〝逃げた〟って思う?」



「思いません」



即答だった。

自分でも驚くくらい、迷いがなかった。



「快浬さんは、自分から〝逃げる〟人じゃないです。もし会社から〝外される〟ことがあっても、それをただ飲み込むような人でもない」



言葉にしてみると、
胸の奥のもやもやが、少しだけ形を持った。



「じゃあ、何でいなくなったと思う?心当たりないの?」



「……分からないです。でも、〝ここにいない理由〟を、ちゃんと自分の口で説明しに必ず戻ってくる人だとわたしは思ってます」



高梨さんは、ふっと笑った。



「そうだね。〝説明責任は絶対にする人〟だからね、あの人」



冗談のようでいて、
本気の信頼がにじむ言い方だった。



「じゃあ、俺たちがやることは一つかな」



「一つ?」



「〝帰ってきたときに、ちゃんと快浬さんの居場所を残しておく〟こと」



高梨さんは、
複合機に詰め込まれた紙を抜き取りながら言った。



「噂は噂として流しておいて、数字と仕事だけは、きちんと積み上げる。それが、残ってる側の責任だと思うよ」



「……はい」



わたしは、その言葉を、
自分の胸にもしっかり刻んだ。
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