今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
「春日さん」
快浬さんが、いつもより少しだけ低い声で呼ぶ。
「はい」
「〝好き〟って、どんな感情だと思いますか」
唐突な問いだった。
でも、その目は、
どこか覚悟を決めたように真っ直ぐだった。
「急に、哲学的な質問ですね」
「答えを用意しているわけではないんです」
フォークの先で、
ケーキの端を少しだけ崩しながら、
快浬さんは続ける。
「〝商品〟や〝企画〟に対する〝好き〟なら、いくらでも言語化できるのに、人に対する〝好き〟となると、急に、言葉が足りなくなります」
わたしは、デザートに手を付けず、
その言葉を飲み込むように聞いていた。
「僕は、〝その人といることで、仕事の精度が上がる状態〟を、ずっと〝尊敬〟だと思っていました。その人の考え方や視点に触れることで、自分のアウトプットがよくなる。それは、〝好き〟というより、〝ありがたい〟とか〝頼りになる〟とか、そういう類いの感情だと」
そこまで聞いて、
わたしの胸の奥が、静かに疼き始める。
「でも、最近、どうもそれだけでは説明がつかないことが増えてきまして」
「説明……?」
「たとえば――」
快浬さんは、一度目を閉じて、
言葉を探すように息を吸い込んだ。
「自分の失敗より先に、その人の失敗を恐れるようになったこと。どんなに忙しくても、その人が二日連続で夜遅くまで残っていたら、自分のタスクを置いてでも、〝今日はここまでです〟って言わせたくなること。〝褒められたらうれしい〝ではなく、〝ちゃんと見ていてあげたい〟って思うこと」
一つ一つ、大事に並べていくように。
「それから、その人のことを考えている時間が増えても、仕事の妨《さまた》げだと感じないどころか、むしろ〝仕事を続ける理由〟の一部になっていること」
わたしは、息をするのも忘れそうになる。
〝その人〟が誰なのか。
もう、聞くまでもなかった。