今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
ドアが開き、
社員たちがそれぞれのフロアで降りていく。
開発企画部の階。
ふたりは、他の社員たちに紛れて、
何事もなかった顔でオフィスに入っていった。
午前中のプロジェクト定例会議。
「今日は、レイアウトを少し変えます」
神田部長の指示で、席順が若干入れ替わった。
結果、わたしはホワイトボードに一番近い席。
快浬さんは、その斜め後ろ。
真正面ではない。
だが、少し斜めに顔を向ければ、
すぐ視線がぶつかる距離だった。
「では、春日さん。先週のユーザーインタビューのサマリからお願いします」
「はい」
立ち上がって、プロジェクターに向き直る。
いつもの仕事。
いつもの声。
けれど、説明の合間に、
ふと視界の端に入ってくる快浬さんの表情が、
前よりもずっと柔らかく見えた。
真剣にスライドを見る横顔。
ペンを握る手。
わずかに頷くタイミング。
——こんなに見てたら、怪しまれる。
自分に言い聞かせて、
ホワイトボードに視線を戻す。
「……以上が、〝今日はここまでライト〟利用家庭の、直近一か月の行動傾向になります」
「ありがとうございます」
快浬さんの声が、すぐ後ろから落ちてくる。
「一点だけ補足させてください」
彼は席を立ち、
わたしと入れ替わるように前に出た。
すれ違いざま、ほんの一瞬だけ、
指先が触れそうになる。
触れない。
触れてはいけない。
そのぎりぎりの距離が、かえって心臓に悪かった。