今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
「あの……今の、少し聞こえてしまって」
「盗み聞きですか」
「いえ、その、声が大きかったので」
快浬さんが、ほんの少しだけ目を細めた。
皮肉とも冗談ともつかない表情だ。
「なるほど。それで、企画のあなたはどう思いました?」
試されている。
わたしは、
胸の奥がきゅっと縮むのを感じながらも、
口を開いた。
「レールのグレードを落とすこと自体は、全否定するつもりはありません。価格帯を広げるためにバリエーションを持つことは、大事だと思います。ただ……」
「ただ?」
「〝うちの標準〟は、どこなんですか?」
快浬さんの眉が、わずかに動いた。
「標準……ですか」
「はい。暁キッチンを選んだ人が、『これが暁の当たり前なんだ』と思えるライン。それより上は、選ぶ楽しさとしてのオプション。でも、標準の水準を下げるのは、ブランドの根っこを小さくすることだと感じてしまって」
言い終えてから、
わたしは自分の言葉がやや感情的だったかもしれないと気づき、
慌てて付け加えた。
「もちろん、コストの事情もあると思うので、今の標準ラインの〝どこがユーザーの満足に最も効いているか〟を、データで洗い出す必要があると思います。そこだけは死守して、他を見直す。たとえば――」
わたしが、
ショールームで観察した来場者の視線や、
引き出しを開ける回数のメモを見せると、
快浬さんは黙って紙を受け取った。
「……ショールームの導線メモまで取っているんですか」
「前職で、癖になってしまっていて」
「なるほど」
快浬さんは数秒、資料を眺め、
やがて静かに言った。
「少しは、話せそうですね。昼休みに時間をください。生産管理の担当も呼んで、具体的に詰めましょう」
それが、わたしと快浬さんが本格的に〝仕事で組む〟最初の瞬間だった。