今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
ある日、わたしは、
試作キッチンの前で快浬さんと激しく言い合いをしてしまった。
「このカウンターの奥行き、もう五センチ広げたいんです」
「なぜです?」
「ここに、まな板と子どもの宿題ノートが並んで置けるようにしたいからです。夕食を作りながら、宿題を見てあげられるように」
「それは理想としては美しいですが、現実の間取りでは、キッチン側をそんなに広く取れません。ダイニングスペースを犠牲にすることになる。五センチのために、何世帯がレイアウトを断念することになるか、あなたは考えたことありましたか?」
「でも、その五センチで救われる時間だってある!」
声が少し大きくなっていた。
周囲の開発スタッフが気まずそうに視線をそらす。
快浬さんは、
しばし黙ってわたしを見つめたあと、
静かに言った。
「……春日さん。あなたは、どうしても人の時間を守りたい人なんですね」
「え?」
「宿題を見てあげる時間。家族で向かい合う時間。あなたが守りたいものは、とてもよく分かりました。そのうえで、『五センチ広げる以外に、その時間を守る方法はないか』を、いっしょに考えてはみませんか」
怒鳴り返されると思っていたわたしは、
言葉を失った。
「たとえば、カウンターを広げる代わりに、〝横並び〟で座れるスタディスペースを隣接させるとか。そこで宿題をしてもらって、料理する親と目線が合うように設計する」
快浬さんは、即興でスケッチを描き始めた。
「それなら、キッチン側の奥行きは変えずに済みます。間取りの制約も少ない。どうでしょう」
紙の上で、
キッチンとスタディスペースとダイニングが、
一本の線でつながっていく。
「あ……いい。すごく、いいです」
わたしの目が、自然と輝いた。
「五センチにこだわっていた自分が、なんだか恥ずかしいです」
「こだわりそのものは、間違っていませんよ。どこにこだわるかを、一緒に探せばいい」
その日、わたしは初めて、
快浬さんを心から『頼もしい』と思えた。