今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
*
数日後。
商品企画部フロアの一角で、
快浬さんに書類の確認をしてもらっていたときだった。
「ところで、春日さん」
「はい?」
「今週末のユーザーインタビュー、手伝ってくれる人を一人連れてきてもいいですか」
「えっと、社外の方ですか?」
「はい。僕の姉です」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
「……お姉さん?」
「ええ。結婚して姓は変わっていますが、暁の元社員です」
頭の中で、
駅前で見たあの女性の姿が、かちりとはまる。
肩までの髪。
落ち着いた服。
自然な距離感。
「もしかして、この前、駅前のビルで一緒にいた人ですか?」
気づけば、口が勝手に動いていた。
「駅前……ああ。そうです。姉の子どもの靴を買いに行っていた日ですね」
「やっぱり……」
力が抜けるように、椅子に深く腰を下ろしてしまう。
「春日さん?どうかされましたか」
「い、いえ。なんでもないです」
顔が熱い。
絶対に今、耳まで真っ赤になっている。
——なにやってるの私。
勝手に彼女だと思い込んで、勝手に落ち込んで。
「姉は、うちのキッチンで育った一人です。〝ユーザーとしての暁〟の話も聞けると思うので、きっと参考になりますよ」
「……はい。では是非、お会いしたいです」
心の中で、
ドス黒く固まっていたものが、
じわじわと溶けていく。
同時に、
その真っ黒な塊を抱え込んでいた自分が、
少し恥ずかしくて情けなかった。
――そうだよね。
快浬さんにだって、
家族も、過去も、いろんな人間関係がある。
そこに、
自分の勝手なストーリーを被せて、
ひとりで傷ついていたのだと思うと、
胸がきゅっと痛んだ。
それでも。
駅前で感じた、あのチクリとした感覚は、
どこかでまだ残っている。
『ただの仕事仲間』だと自分に言い聞かせているのに、
その枠から少しでも外れた光景を目にすると、
すぐに心がざわついてしまう。
嫉妬。
という言葉を、
まだ喉の奥でぎゅっと握りつぶしながら、
わたしはパソコン画面に視線を戻した。
カーソルが点滅するコンセプトシートに、
新しく打ち込むべき言葉が、
なかなか浮かんでこなかった。