今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜



数日後。

商品企画部フロアの一角で、
快浬さんに書類の確認をしてもらっていたときだった。



「ところで、春日さん」



「はい?」



「今週末のユーザーインタビュー、手伝ってくれる人を一人連れてきてもいいですか」



「えっと、社外の方ですか?」



「はい。僕の姉です」



一瞬、言葉の意味が理解できなかった。



「……お姉さん?」



「ええ。結婚して姓は変わっていますが、暁の元社員です」



頭の中で、
駅前で見たあの女性の姿が、かちりとはまる。

肩までの髪。

落ち着いた服。

自然な距離感。



「もしかして、この前、駅前のビルで一緒にいた人ですか?」



気づけば、口が勝手に動いていた。



「駅前……ああ。そうです。姉の子どもの靴を買いに行っていた日ですね」



「やっぱり……」



力が抜けるように、椅子に深く腰を下ろしてしまう。



「春日さん?どうかされましたか」



「い、いえ。なんでもないです」



顔が熱い。
絶対に今、耳まで真っ赤になっている。


——なにやってるの私。

勝手に彼女だと思い込んで、勝手に落ち込んで。



「姉は、うちのキッチンで育った一人です。〝ユーザーとしての暁〟の話も聞けると思うので、きっと参考になりますよ」



「……はい。では是非、お会いしたいです」



心の中で、
ドス黒く固まっていたものが、
じわじわと溶けていく。

同時に、
その真っ黒な塊を抱え込んでいた自分が、
少し恥ずかしくて情けなかった。


――そうだよね。


快浬さんにだって、
家族も、過去も、いろんな人間関係がある。

そこに、
自分の勝手なストーリーを被せて、
ひとりで傷ついていたのだと思うと、
胸がきゅっと痛んだ。

それでも。

駅前で感じた、あのチクリとした感覚は、
どこかでまだ残っている。

『ただの仕事仲間』だと自分に言い聞かせているのに、
その枠から少しでも外れた光景を目にすると、
すぐに心がざわついてしまう。

嫉妬。
という言葉を、
まだ喉の奥でぎゅっと握りつぶしながら、
わたしはパソコン画面に視線を戻した。

カーソルが点滅するコンセプトシートに、
新しく打ち込むべき言葉が、
なかなか浮かんでこなかった。
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