今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
「でね。さっきの話、もう少しだけ〝裏側〟の話してもいい?」
「裏側……?」
「快浬の、過去の話」
その名前が出た瞬間、
わたしの心臓が一段階速くなる。
「聞きたい?」
「……はい」
自分でも驚くほど、即答だった。
「快浬、昔一回、大きくやらかしてるんだよ」
「えっ」
「前にさ、暁で〝プレミアム路線の高級キッチン〟立ち上げたことがあってね。海外ブランドに対抗するやつ」
どこかで聞いたことのあるような話だった。
高級ショールームの記事に出てきたような、
ラグジュアリーキッチン。
「素材もこだわって、ショールームもすごくきれいで。役員たちも〝これぞ暁のイメージアップ商品だ〟って乗り気だった」
「それ、快浬さんが?」
「うん、若手プロジェクトリーダーとしてね。プレッシャーもすごかったと思う」
美桜さんは、
ハーブティーを一口飲んでから続ける。
「でも、ふたを開けてみたら、ぜんっぜん売れなかった」
「……」
「ショールームに来るお客様は、〝わあ素敵〟って言うの。でも、〝これを自分の家に入れよう〟って決断するまでには、行かなかった」
高級キッチンショールームの記事にあった、
〝憧れはあるけど、現実とのギャップ〟という言葉が頭をよぎる。
「暁の既存のお客さんの暮らし方から、ちょっと浮いちゃってたんだよね。〝見せるためのキッチン〟になりすぎてた」
「快浬さんは、なんて……?」
「〝自分の責任です〟って、役員会議で頭下げてた。〝現場を知ってるつもりで、暮らしをちゃんと見てなかった〟って」
胸が締めつけられるような感覚がした。
「お父さん……今の社長ね。そのとき快浬に、〝会社の看板に甘えるな〟みたいなキツいこと言って」
「……」
「それで一時期、本当に工場に〝飛ばされかけた〟の」
「最終的には、〝現場で立て直し案を考えさせる〟って形になって、今みたいに工場と本社を行き来するポジションになったけど」
美桜さんは、小さく肩をすくめた。