今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
「ところで、快浬さんは……」
つい口をついて出た言葉に、自分で驚く。
高梨さんは「お」と目を細めた。
「今日は来ないよ。工場側との調整でつぶれてるはず」
「そう、なんですね」
ほっとしたような、物足りないような、
複雑な感覚が胸の中に広がる。
——来られないのが普通。
部の飲み会だし。
そう言い聞かせながらも、
どこかで『少しくらい顔を出してくれてもいいのに』なんて、
図々しいことを考えている自分に気づいて、
グラスの中の氷をカランと鳴らした。
「春日さん」と、席を立った誰かが、
向かいの空いた席に腰を下ろした。
部長の神田だった。
「入社から一ヶ月、どうだい」
「なんていうか……濃かったです」
思わず本音が漏れる。
「前の会社で一年分くらい考えたことを、一ヶ月で詰め込まれた感じで」
「それは何よりだ」
部長は短く笑った。
「歓迎会は、こう見えて大事なイベントでな。〝新しく来た人に、ここは安全な場所だと感じてもらう〟のが、一番の目的なんだよ」
どこかで聞いたような言葉だった。
研究会の資料で、
『歓迎会の本来の役割は、感謝と期待を伝えて心理的な安心感を作ること』と書かれていたのを思い出す。
「うちの部署は、口は悪いけど、根は真面目なやつばっかりだ。困ったときは、遠慮せずに頼ればいい」
「……はい」
部長の言葉は、
不器用な励まし方なのに、
不思議と胸にじんと染みた。
そのとき、入り口の方が少しざわついた。
「お、来た来た」
誰かが言う。
ふと顔を上げると、
スーツ姿の快浬さんが、
少し申し訳なさそうな顔で立っていた。
「すみません。遅くなりました」
「おお、キッチン王子!まさかのサプライズ登場!」
高梨さんが大げさに拍手する。
「今日は顔出せないって聞いてましたけど」
「工場側との打ち合わせが早く終わりましたので。それに、春日さんの歓迎会を、部のイベント一覧で見かけたので」
そう言って、
快浬さんはわたしのほうを一瞬だけ見る。
たったそれだけの視線なのに、
心臓がどくんと鳴った。
「じゃあ、本部長からも一言いただきますか」
高梨さんに促され、
快浬さんはやや居心地悪そうにグラスを持つ。