今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
夜十時を過ぎても、オフィスの灯りは消えない。
「春日さん、エネルギー補給」
高梨さんがコンビニのペットボトルを置いていく。
「ありがとうございます。高梨さんこそ」
「俺はまだ大丈夫。でも、春日さんと快浬さんは、ほんとに倒れるまでやりそうだから、ちゃんと〝ここまでライト〟自分たちにも当ててよね」
冗談めかして言いながらも、
目は心配そうだった。
「……プランBって、本当に用意してるのかな?」
高梨さんが、帰り際にわたしにだけ、小さな声で言う。
「高梨さんも聞いてるんですか?」
「ちょっとだけね。でも、春日さんには、どっちに転んでも後悔しないように、〝自分のやりたいこと〟もちゃんと混ぜておいてほしい」
その言葉の意味を、
わたしはまだうまく飲み込めていなかった。
ただひとつだけ、はっきりしているのは。
——私は、信じたい。
役員会で笑った人たちではなく。
『また失敗するんじゃないか』と囁《ささや》く声でもなく。
テストユーザーの『助かった』という小さな笑顔と、
工場のラインで汗をぬぐう人たちと、
そして、何度失敗してもなお、
諦めずに図面を引き直すこの人の背中を。
——この人と一緒に作るキッチンは、
絶対に〝ただの坊ちゃんプロジェクト〟なんかじゃない。
終電ギリギリの時間。
オフィスの窓の外には、
春の嵐のような強い風が吹いていた。
社内にも、競合からも、
見えない嵐が吹き荒れている。
それでも、デスクの端で、
小さな付箋が一枚だけ静かに光っている。
『今日はここまで』
自分で書いたその言葉を見て、
わたしはペンを置いた、はずだった。
「……あと、これだけ」
呟きながら席を離れないわたしの横で、
まだ図面に向かっている快浬さんの横顔が、
いつもより少しだけ、遠く見えた。
プランAと、まだ見ぬプランB。
その両方を抱えたまま、静かに、
しかし確実に進んでいくのだった。