今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
「ねえ」
秋人が、図面を置いて言った。
「前にさ、俺たち、一緒に暮らす話したの覚えてる?」
「うん」
「結局、〝どこまで仕事を持ち込むか〟の線引きができなくて、うまくいかなかったよね」
逃げずにそう言われて、わたしは苦笑する。
「図面の上では、一緒に暮らせてたんだけどね」
「でもさ」
秋人は、少し優しい顔で続ける。
「今の小春なら、たぶん〝ここまで〟と〝ここから〟の線引き、決められるんだろうなって思う」
「なんで?」
「だって、小春は〝誰かの暮らしをよくしたい〟って一番に考えられる人だから」
そう言って笑う顔は、昔より少し大人びていた。
「次、一緒に暮らす人とは、うまくいくといいね」
「……うん」
胸の奥で、ある人の顔が、はっきり浮かんだ。
「このあと、少し歩く?」
秋人の提案に、わたしはうなずいた。
川沿いの遊歩道。
昔、何度も一緒に歩いた道。
「俺さ」
秋人がふいに口を開く。
「正直、小春の婚約破棄したあと、他の誰かとちゃんと付き合ったことなくて」
「え」
「比べちゃうんだよね。〝一緒に仕事の愚痴言える相手〟って、やっぱり特別だなって」
胸がじんとする。
「今は?」
「今は……また一緒に、なんか作れたらいいなって、ちょっと思ってる」
立ち止まってこちらを見る目は、昔と変わらず真剣だった。
「東京に戻る前に、もしよかったらさ。もう一回だけ、〝仕事のパートナー〟として話聞かせてよ。小春が今どんなキッチン作ってるのか、興味あるから」
「……うん。それは、うれしい」
本当にそう思った。
秋人と話していると、
自分が『キッチンのことを語る自分』に戻れる気がする。
それは、悪くない感覚だった。
ただ、その奥に、別の輪郭が常にあった。
――誰かの横に立って、
〝一緒に未来のキッチンを語る〟光景。
それは今、
別の人の横顔と結びついてしまっていた。