今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
「快浬さんです」
言葉にした瞬間、胸の奥にあったもやが、
すっと晴れていく。
「地元で、秋人と話してるときも、〝今なら快浬さん、ここでどう言うかな〟って、ずっと頭の片隅にあって」
「……それは、少し複雑な心境になりますね」
それでも、とわたしは笑う。
「でも、そのおかげで分かりました。私、もう〝過去とだけつながってるキッチン〟じゃなくて、〝これから一緒に変わっていくキッチン〟のほうを見てるんだなって」
快浬さんは、しばらく黙ってわたしを見ていた。
やがて、ほんの少しだけ口元をゆるめる。
「では」
車のドアを開け、軽く会釈する。
「未来のキッチンの話をしながら、東京まで戻りましょうか」
「はい」
スーツケースをトランクに載せ、
助手席に乗り込む。
ドアが閉まる音。
エンジンの振動。
窓の外で、
地元の風景が少しずつ遠ざかっていく。
――やっぱり、好きなんだ。
車窓に映る自分の顔は、
不思議とすっきりとしていた。
過去の約束も、
昔の夢も、ぜんぶ抱えたうえで。
それでも今、
一緒に『ただいまから三十分の光景』を作りたい人は、
隣でハンドルを握っている、この人なのだと。
わたしは、
そっとシートベルトを握りしめた。
その手に、
運転席から伸びてきた手が、
ほんの一瞬だけ重なりかけて――
次の瞬間、信号が変わった。
「安全運転が最優先ですね」
「はい。〝今日はここまでライト〟が光るまでは、ちゃんと帰り着かないと」
二人は顔を見合わせ、同時に小さく笑った。