余所者-よそもの-【 2 】
「僕……初めてなんだぁ。友達ができたの」
するとふいに瑞生がその本を取り上げ、パラパラと中に目を通した。
やがて、不思議そうな顔をして尋ねる。
「友達なの?俺たち」
「え……そ、そうだよ!」
「友達って、具体的にどういうの?」
「ええっと……なんていうか、僕もまだ上手く言語化出来てないんだけど」
「うん」
「きっと、こういうのなんだと思う!」
空に放つようにそう言ったコイツは、短い両手を大きく、いっぱいに広げてみせた。
俺と瑞生、そして自分自身が並んで座っているこの狭い屋上の空間全てを包み込むように。
さわさわと、屋上に吹き込んだ柔らかな秋風に、なんか胸の奥が少しだけむず痒い感じがした。
「こういう関係をね、『友達』って言うんだよ」
「友達は、下の名前で呼ぶの?」
「うん!下の名前で呼んだり、あとはあだ名を付けたりもするんだって」
「……お前の下の名前はなに?」
「コウタだよ!」
瑞生は少し考えるように、澄み切った青い空を見上げた。
やがて、その視線をもっさりメガネまで戻せば、茹でダコみたいなその顔を指差して、
「コタコ」
と、呼んだ。
「……え?コタコ?それってもしかして、僕のあだ名?」
瑞生が「うん」、と短く答えると、もっさりメガネもとい、コタコは正座しながらぴょんぴょんと嬉しそうにその場で跳ねて、喜んだ。
コタコ……コタコな。
コイツはすぐにタコみたいに顔が赤くなる。
カツアゲ連中からも『タコ』って呼ばれてたし。
普通なら嫌がりそうなモンだけど、なんだ。
コタコ本人はとっても嬉しそうだ。
瑞生はコタコから取り上げた本を、そのまま読みだした。
きっと瑞生にとっても『友達』という存在が初めてなんだろうと思った。
……にしても。
友達の定義なんて、何もそんな小難しく考えなくたっていいのに。
そう思ったけど、初々しく”友達”と呼び合う可愛いこいつらに、もう何も言うまい。