余所者-よそもの-【 2 】
「……違うって、言おうと思ったんだ。でも、イラついて言えなかった」
「イラついたって、誰にだよ」
「かぁこ……」
ぽつり、と呟かれた彼女の三文字の名前。
いつの間にかつけられていた、ユキ専用のあだ名。
「イラつくんだ……」
「何にイラつく?」
「紫藤のところに行くから」
「紫藤?」
俺がそのまま尋ねれば、返ってきたユキの声は今にも泣きだしそうで、弱々しかった。
それはおよそ何年振りか。
高校以来聞いたことのない、悩みに悩んだ声。
懐かしい声の色をしていた。
「紫藤がアイツを欲しがってる。……そういう関係なのかもしれない」
ユキは掻き上げた前髪をぐちゃぐちゃと更に掻き回す。
それはきっと、頭の中の状態とイコール。
「俺、おかしい。もう、ずっと変なんだ」
「どう変なんだ」
「アイツの前だといつもの自分で居られなくなる。ずっと何かに焦ってて、アイツのことばかり考える」
「何に焦る?」
「わからない。笑ってほしいのに、俺以外の誰かに笑うのは許せない。傷ついて欲しくないのに、泣いて俺に縋りついてきてほしい」
「それはおかしいな」
「俺の中が矛盾してる。支離滅裂で、バラバラだ」
ユキは長年、自分には感情はないものとして生きてきた。
それが突然、予測も制御もできない状態で発生すると、どうなるか。
コイツにとっては深刻なバグ。頭がおかしくなった状態。
そうとしか説明が出来ない。