余所者-よそもの-【 2 】
――じゃあ。
多夜や野間が私にずっと固執していた理由は。
「私にカエデさんを忘れさせろってこと?」
「違います。忘れさせるなんて誰にもできない」
「じゃあ、どうして?」
「理由なんて知りません」
「………」
「ただ、あの人が笑ってる時間は確かに増えた」
「………」
私が何も言えないでいると、野間はカウンターチェアの上で腰を少し浮かせ、ポケットに手を入れた。
ス、と差し出された、彼の右手。
「約束です」
指輪を受け取る私の手は、少し震えていた。
「なんで、この指輪を野間くんが持っていたの」
「もともとは紫藤さんが。けど、リビドーのゴミ箱に捨ててあったので、回収しておきました」
「……ありがとう」
私の手の上に小さくのったリングが、心なしかずっしりと重く感じた。
「知り合いのサツから聞いた話ですけどね。男の持ち物はそれだけだったそうです」
「指輪だけ……?」
「はい。男は持ち物の全てを金に換え、ドラッグをむさぼったのだろうと。身分証もスマホも何も持ってなかったって。なんならベルトも靴もなかったそうですよ」
「………」
「そんな中これだけが残されていたんです。愛ですかね」
「………」
「それとも、これだって罪悪感の鎖になるんでしょうか」
重なる、重なる。
シドと、私が。
野間の静かな言葉の一つ一つに、どんどん重なっていく。
「紫藤さんはカナコさんに忘れさせてあげたかったから。だから指輪も返さず、捨てた」
途端、手の中のリングが熱を帯びた気がした。
「皮肉ですよね。だけどまぁ、これも一つの結果っすから」